教師が征く ザンビアの研究授業
ザンビアの研究授業
このシリーズは、アフリカ・ザンビアの農村部にある学校で奮闘したある漢(自称:サムライ熱血教師)の話である
今日は来週の研究授業に向けて会議があった。
9時集合なので8時55分に学校に行った。武士道に遅刻の二字はないからだ。
会議の場所には、校長と見るからに聡明で器の大きそうなマダムしか来てなかった。ザンビアでは、よくある話である。
結局、10時に全員が揃った。これを巷ではザンビアンタイムと呼んだ。現地の人間が、そう教えてくれた。
会議では、普段見ない教員も散見された。どうやら他校からも教員が集まっているらしい。
サムライ熱血教師の彼は、自分に向けられた多数の視線を感じていた。アフリカ人の中に一際光る孤高の侍がいるのだ。仕方のないことである。
会議が始まった。校長が開口一番に言った。
「日本では9時に始まると言ったら9時に始められる。例え、諸君が遠いところに住んでいてもな!」
と、少しキレ気味でスタートした。
日本の「に」の字も知らないザンビアの教員達は「あっそ」という空気を漂わせていたことは言うまでもない。
単元選び
会議では、研究授業をするにあたり、どの単元にするか、という話し合いから始まった。
「難しい単元をやろう」
という意見が出たので、教科書をぺらぺら捲りながら、ここはどうか、これもいい、という感じで色々意見が出た。
“あの~、授業する人、俺なんですけど”
と、心の声を抑えつつ、これがザンビア流の戦術の練り方なのかと、観察していた。
「ブラザーはどう思う?」
と、ふいに他校のサムライに聞かれた。
「俺はどこでも引き受ける。ただ、いきなり難しい所を選んでも、基礎知識がない生徒が理解できるとは思えへんで」
正直に言ってしまった。
反発を覚悟していたが、すんなりと受け入れられてしまった。結局、本来のスケジュールに従って単元が選ばれた。
授業内容は「空気の膨張」に決定された。
目に見えない”温度”と”空気”の関連性について、如何に生徒に理解させるかが焦点となる。
ここまで来るのに1時間以上費やした。
実験ができない
次に「どんな導入にするか」を話し合った。
先生方は言葉の定義や軽い復習を入れるなど、色々な意見を出していた。それらをまとめてひとつの導入が出来上がった。
この導入の構成作業に軽く2時間以上を費やした。
次に「どのように導入を展開に繋げるか」を話し合った。
具体気にどう説明するか、つまり、如何にして「温度の上昇による空気の膨張」を生徒にイメージさせるか、が焦点となった。
しかし、ザンビアの農村地で簡単に手に入るものを使って説明できないことに、先生方が気付きはじめた。
みんな煮詰まって黙り込んでいたとき、ふいに、
「ビッグマンならどうする?」
と、聞かれた。熱血教師の彼は、
「俺なら授業の導入部分でポップコーンかフリッター(ザンビアのあげパン)でも作らせて、何がどうなったかを問うかな」
と半分ふざけて言った。
それは、先生方が2時間以上かけて話し合った導入の内容とは全く違うものだった。
弾けるようにして、先生方は白い歯を見せて笑った。お偉いさんも半笑いで頭をかかえて教室を出て行ってしまった。
”少し刺激が強かったかな”と、彼は少し反省していた。
ザンビア流チームワーク
それから数分後に大名(校長)に呼ばれて外へ出た。他の旗本(お偉いさん)も一緒にいた。一人のお偉いさんが、
「あの会議はどう?」
と、孤高の侍に聞いた。
「いや、普通ですけど」
と、彼。校長が問う。
「正直言って、あそこにいて心地良いか?」
「いえ、正直かなり退屈です」
お偉いさんらが、ほら!やっぱりね、と言うような顔で校長を見る。
「よし、英語が速過ぎて何言ってたか分からなかったことにして、お前は自分のやり方でやれ」
と、校長。
「誰もフリッターなんて思いつかない。今あなたの頭にある授業を見てみたいわ」
と、お偉いさん。
「仰る通りに致します」
と、彼は口では言いながらも(うせやんっ!!)と心で叫んだ。口は災いの素である。
結果、ザンビアの先生約10名と日本人の1人のチームに分かれ、同じ授業を各々のやり方でして比較することになった。そこで校長が気を利かせて最も信頼できる理科教師を彼のチームに入れてくれた。
校長とカウンターパートにだけ買ってきたマラウイのお土産が、こんなにも早く効果を発揮するとは思ってもみなかった。
さて、あとはやるしかない。
”ザンビアの子供たちを楽しませながら学ばせたい”
武者震いが止まらなかった。
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