教師が征く ある生徒の劣等感
生徒との一対一の対話
このシリーズは、アフリカ・ザンビアの農村部にある学校で奮闘したある漢(自称:サムライ熱血教師)の話である。
昨日は近所の高校生と対話を試みた。
彼は両親を失ったのか、もう会うことはないのか、姉の夫婦の家で暮らしてる。
里帰りもしてない。
彼の口から、両親の話が出たことは一度もない。
深く聞くことは、まだ出来なかった。
まずは、彼の近況と将来について話すことにした。
今年で、高校3年生になる。
大学には行きたい。
夢は、ビジネスマンになること。
そう聞いて、熱血サムライ教師は、暫く彼の眼の奥に光るものを見つめていた。
「可能であれは、ザンビアではなく、海外の大学に行くと良い」
「はい、日本の大学に行ってみたいです」
「俺は、お前ならもっと高みへ行けると信じたい」
特にイギリスのオックスフォード大学など、世界のトップ10に入るような大学は、今後の人生に大きく変える力がある。
世界の若者と勉学を競うことは、生涯の財産になる。
澱みない友情は、それが広ければ広いほど、後になって活きてくる。
ただ、もし本当に、日本の大学へ来たならば、できる限りの協力をしてあげようと、彼は思った。
数多くの不都合を抱えてもなお「全て大丈夫です」と言う姿に、そしてその純粋な眼に、彼は何か感じるものがあったのだ。
肌の色について
そもそも何故今さら近所の高校生と対話をしようと思ったのか?
この時期は春休みのせいか、その高校生は、有機化学だの物理だのを教えてくれと、わざわざサムライ熱血教師の家まで来ていた。
勉強だけを教えて家に帰すこともできたが、せっかくの機会だと思い、一対一の対話をすることにした。
一番印象に残った内容は「肌の色について」だった。
その高校生は、自分の黒い肌について、何かしらの欠点を感じているようだった。
サムライ教師の眼には、ただただ美しく見えるその漆黒の肌について、コンプレックスを持っていた。
「この肌のせいで損をすることがあります」
その言葉を放ったときの、彼の眼から漂う哀愁が、熱血漢の心を締め付けた。
この発言は、空手の生徒からも聞いたことがある。
その時は、想いの丈を拳に込めて語り合った。言葉を発すると、その目から溢れるものがあったからである。
コンプレックスは誰にでもある。
サムライ熱血教師も、かつては修学旅行に行けないほど貧乏だった。「お金がない」ということが、彼の欠点だと思い続けた過去がある。
世界のトップモデルですら、コンプレックスはある。逆にそのコンプレックスが、世界の頂点へと上り詰める原動力となったりもする。
「俺が日焼けしたときは、お前の仲間に入れてくれ」
そうお願いすると、彼は白い歯を見せて笑った。
「日本でも、僕に友達はできますか?」
「お前なら、兄弟もできる。多くを語ることもなく、分かり合える友だ」
詮ずる所、人は中身が大事だということで、話は落ち着いた。
人種、性別、国籍、文化、年齢が違えど、人類にとって大切なのは心である。
生徒と教師という垣根を越えて、人として向き合えたことが、彼は嬉しかった。
明日もまた、教師が征く、
遠く離れたアフリカの大地にて、
燃え滾る情熱、強く抱きて。
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